宿題1・かみと魔界塔士が二人で塔を降りる話

宿題提出です。漫画にする時間がとれないので筋書きだけここに文章として公開しておきます。
ネタ以上小説未満の大体の筋書きテキストになります
魔界塔士視点

 気付いたら俺は塔の最上階に居た。
 頭上には一面の青。抜けるような青空が広がっている。
 それがここより上は無いのだろうということを何よりも示していた。

「……ンだよ、これは」

 どうせこれもまたあの男の仕業なんだろう。
 俺は舌打ちをして、目の前に延々と広がる階段を一歩ずつ、下り始める。
 一段。また一段。俺は螺旋階段を下っていく。
 階段は永遠に続いているように長く、ひとつ下の階に到達したときには頭上に広がる空はもう夜になっていた。

(降り始めた時はまだ日が昇っていたよな……)
 
 冷静に考えてみれば、俺は塔の中にいるのに、月の光を浴びているというのもおかしな話なのだ。
 しかしここはあの男が作った塔の中だ。それならば、きっとどんな滅茶苦茶も筋が通るってもんだ。

「そうですよ、【そういうもの】なのです」

 気付いたら目の前に立っていた男はいつも通りのふざけた笑顔を浮かべてこう言った。
 まるで頭の中を覗いたような物言いだな、と俺が言うと、男はさも当然だというように頷いている。

「あんたのそういうとこが、俺は気味がわりぃと何度も言っている」
「ですが、私は【そういう】存在なんですよ。貴方もよく知っているでしょう?」

 ニコリと、人好きのしそうな、しかしどこか信用できない胡散臭い笑顔。
 俺はこの男のこういうところが心底嫌いだった。

「おい、それよりなんだここは。早くここから出せ」
「それは出来ませんよ。ここは私が作った塔ですからね」

 塔。そうだ、この目の前の薄気味悪い笑顔を浮かべているシルクハットの男は、また変なことを企んでいやがる。
 この塔はこいつの遊び場なのだ。

「……その手には乗らねぇからな」
「乗る、乗らないではありません。貴方に選択肢はないんです」

 ──この世界は私の思うままなんですから。

 退屈で駄々をこねるガキだってこんなタチは悪くないだろう。
 男は俺の眉間の皺が深くなっていく様を見て、更に上機嫌になっていく。まったくタチが悪いにも程がある。
 これ以上話していると頭がおかしくなりそうだ、俺は目の前の男を無視して更に下へ下ることにした。

「一階には辿り着きませんよ。ここは私が、貴方と暇つぶしをするために作った特別な塔ですから」

 後ろからついてくる男は相も変わらない調子でそう言った。

「終わりは作っていないのです。この塔は【そういうもの】なんですよ」
「あんたの言うことは心底理解ができねえ」

 この男といつまでも話していたら気が狂う。
 俺はそれからついてくる男の言葉を無視して、階段を下り始めた。
 一段降りる。延々と螺旋階段は続く。長い時間をかけ一階下に辿り着く。遥か頭上の空はいつのまにか朝日が指していた。

「大分長い間階段を下っていますが、そろそろ疲れてはいませんか?
 上に戻って私とお茶でもしませんか」
「アァ?」

 男が指さす先にはエレベーターがある。

「…………おい、こんな便利なモンあるのなら早く言え」
「これは上り専用です。下りはありませんよ」
「…………なんて意味のないものを作りやがった……」

 何もかもが気に入らない。俺はまた階段を降り続ける。
 延々と続く螺旋階段は終わりが見えず、頭上の空はいつのまにか見えなくなった。

 男は相も変わらず俺の後を付いてきては、一人で話を続けている。

「──神はね、本当に退屈な仕事なんですよ」
 ごちゃごちゃうるさいラジオのBGMだと思えば腹を立つことも忘れられそうだ。
 俺の返事もいらないのか、男は延々と一人で話を続けている。
 無機質な塔の中で、男の声だけ作りものではないようだ。本当はこいつが一番の作りものに思えるのだが。

「他人の運命を延々と書き記す仕事というものはね、終わりのない作業なんです。
 それに喜びを覚えたらと思い、色々自分で弄ってみたこともありましたよ」
 
 百階まで数えて、俺はその先を数えるのをやめた。
 とにかく降り続ければ、いつか一階には辿り着ける。

「ですが私は悟りました。この営みに、是非は無いんです。時間と物質、そして運命、営み、それが我が喜びの筈でした。
 ですが、その是非の結末とは、全て終焉に至る」

 もう何日経ったのだろうか。俺は塔を下り続ける。
(こんなつまらねぇ塔を抜けだしたら、まずは酒場に行きてぇ。
 それで浴びるほど酒を飲んで……あいつらと飯をたらふく食って…………)

「──それならば、全ての結末に是非は無いと、私は悟りました」

 俺達は階段を降り続ける。俺はずっと男の言葉を無視し続けた。

「だから私は自分の運命をほんの少し書き換えてみました。その結果がこの塔です」

 暫しの休憩。
 男は疲れた様子など見せずに、俺の目の前で優雅に寛いでいる。
 確かまだ食料があった筈だ、と鞄の中を漁っていると、出てきたのはまだ未開封のミネラルウォーターと、まだ口をつけていない干し肉だった。
 俺はそれを口の中に放り込み、水で押し流す。
 男は瞬きもせずに俺を見つめていた。

「私も貴方も、最初から最上階に居たでしょう。
 この塔は文字通り永久なのです。
 最初から終焉に至っている。もうこれ以上の過程は存在しない。故に、この塔に一階は無いんですよ」

「…………あんたの話は、何言ってるのかさっぱりわからねぇ」

 こんな酷い返事でも、男は俺に返事を貰えて満足したようだ。

「だから、こんな無駄な行為はもうやめて、上に戻りませんか。
 最上階に戻ったら、こんな粗末な食事ではなく貴方の望んだ食事を用意してあげますよ。
 酒も、肉も、思いのままに」
「…………」

「……なあ、この塔は、一階は無いんだろ?」
「ええ、ありません。最初から【そういう】存在なんです」
「あんたが言うなら間違いないんだろう。
 ……でもな…………」

 
 俺には何故だか、ずっと確信があった。

「──俺だけは、一階に辿り着けるぜ。
 他の誰もが……あんたですら辿り着けなくても、俺だけはいけるんだ。
 あんたが何を企もうが、この塔自体がどれだけイカれていようが──俺だけは、必ず一階に辿り着ける」

 俺の言葉を聞いた男は、きっと大層胡散臭い笑顔を浮かべるに違いない。
『さすが私が見込んだ人だ』とか、『それでこそ私の創造した子達』とか、そんな歯が浮きそうな言葉を並べて。
 
 だが男の顔はいつもと違った。

「…………そう、ですか」

「……きっと、貴方は【そう】なのでしょうね。
 私の思惑から外れ、貴方は、自分の道を往くのか」

 男はまるで泣いているようにも笑っているようにも見えた。
 初めて見る表情だった。

「私の思惑も、運命も、終焉も、全て書き替えても貴方には、通用しない。
 そう……【そういうこと】なのでしょうね」

 何がそんなにこの男に響いたのかわからないが、男は初めて見せる顔で、俺のことを見つめている。
(こいつ、こんな顔もするんだなァ)
 俺は素直にそう思った。

「──それもまた、良し」

 そこから男は沈黙してしまい、俺は再び階段を降り続ける。
 男も俺の後を黙ってついてくる。

 ここは今、何階なんだろうか。ここに閉じ込められて何日が経ったのだろうか。
 それも俺にはわからないし、きっと、俺と一緒に階段を下る男にもわからないはずだ。
 だが、いつか俺は辿り着けるのだ。

「なぁ、あんたは一階に着いたらどうするんだ」
「さあ、どうしましょう。それは私も知らない運命なので」

 ──俺達はまだ、一階に辿り着かない。
 
(了)

私の中で魔界塔士くんは物語の主人公=ラスボスに打ち勝つ存在であり、かみ=主人公に負ける存在というルールならば、魔界塔士くんは最後何らかの形でかみの思惑の枷から唯一抜け出してしまう存在だと思っているんです
バグとしてのチェーンソーも私にはそう感じさせました。存在全てがかみの思惑と理から外れている。
これはメタな見方なのですが、ラスボスであるかみは最後には決して勝てないところもあるだろう、と思っています
リユニのフレーバーテキストを引用しましたが、かみ自身も「自分の運命」についてそう思っている節があるのかもしれません。私はフレーバーテキスト深読み芸人なんですが、かみの哀愁のようなものを強く感じたからです。私は攻めキャラが一瞬だけ見せるそういう表情がだ~い好きなので、私の書くかみもその辺が色濃く出ているのかもしれません

私の中でカップリングというものを成立させるのならば、攻めと受けの間で絶対的な「何か」が存在してほしいと思っています。
かみ×魔界塔士はかみが唯一、まるで人間のような表情を見せるのが魔界塔士の前であって欲しいと思っているんです。
大体そういう感じの話です。書いている時のBGMはずっと怒闘。

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